Changing Horses / Ben Kweller (ATO)2009/02/04

Changing Horses / Ben Kweller

地方に行ったり、番組の収録が続いたり。ばたばた慌ただしくて。なかなかたっぷりと音楽を楽しむ時間がとれず淋しい今日このごろ。移動時間に聞こうとか思っても、すぐ寝ちゃうんだよなぁ。トシだなぁ。

そんな中で聞いた限られた新譜の中から、今回は元ラディッシュ、ポスト・グランジ世代のポップなシンガー・ソングライターとして日本でもそれなりに注目されているベン・クウェラーの新作です。4枚目ってことでいいのかな。国内盤が先行でリリースされたようだけど、輸入盤が出回り始めたのでようやく入手しました。

今回はテキサス生まれのベンが、自らのカントリー・ルーツを全開にした仕上がり。こういうカントリー寄りのシンガー・ソングライター・サウンドは70年代にはよくあった。なので、米ロックの古株リスナーの方々には懐かしく楽しめるかも。ドブロとペダル・スティールの雨アラレ。

でも、楽曲的にはこれまでのベン・クウェラー節と大きく変わってはいない。むしろ、これまでのポップなサウンド・メイキングの中では気づかれにくかったベンの持ち味が露わになった1枚というとらえ方のほうが楽しそうだ。曲によっては、ビートルズ時代のポール・マッカートニー経由のカントリー感覚みたいなものも聞き取れて。ねじれ具合が面白い。

ただ歌詞のほうに、グレイハウンドの停留所とか、故郷へと帰るハイウェイとか、広がる星空とか、かなり意図的にカントリー寄りの表現が採り入れられているのが新味か。そうした真っ向カントリーっぽい表現をロック世代ならではの感覚とちょっと弱々しい歌声で歌うことで不思議な浮遊感を演出しているあたり、やはりグラム・パーソンズやジーン・クラークあたりとの相似性を感じさせます。

Picture Book / The Kinks (Sanctuary)2009/02/06

Picture Book / The Kinks

去年の暮れに輸入盤で出たキンクスのボックス・セット。紹介しそびれていたけれど、今月になってSHM-CD仕様の国内盤も出たようなので、遅ればせながら取り上げておきましょう。レイ・デイヴィス自身の監修のもと、パイ、RCA、アリスタ、ロンドン、コロムビア、コンク/グレイプヴァインと、在籍全レーベルの音源からの重要曲をほぼ年代順に収めた6枚組だ。

なにやら新作をレコーディング中との噂も駆け巡っているキンクスだけれど。今のところキンクス名義での最新オリジナル・アルバムは96年の『トゥ・ザ・ボーン』。というわけで、基本的にはそこまでの歴史をたどり直す内容だ。前身バンド時代の、まあ初出ではないものの貴重な音源とか、デビュー以降のデモ、別ミックス、別テイク、テレビ/ラジオ音源などレア/未発表曲も含む全138曲。

とはいえ、レア音源に関して、パイ時代、アリスタ時代のものはそれなりに興味深いものが入っていたりはするものの、RCA時代に関しては今いち。初出ものはもちろん、アナログ時代に出たのにいまだCD化されていないレア音源もガン無視されている。契約上の問題なのか、監修したレイ・デイヴィスの思いなのか、よくわかりませんが。ちょっと残念なことになってます。

かといって、じゃ正規音源のほうが充実しているのかと言うと、これまたたとえばパイ時代の「ワンダーボーイ」や「プラスティック・マン」、アリスタ時代の「グッド・デイ」など、収録されなかったシングル曲がけっこうあったり、「カム・ダンシング」がデモのみ収録だったり。

まあ、長い長いバンド・ヒストリーをたどるにはCD6枚でもむずかしいってことか。仕方ないっすね。でも、なんだかんだ言って、この箱は“買い”でしょう。時代とともにサウンドを大きく変化させながら独自の立ち位置で独自の活動を続けてきたキンクスだけれど、どの時代の音にも彼らならではの英国人っぽいシニカルな眼差しが変わらず、くっきり刻み込まれているという事実を再確認できるし。かっこいいバンドだな、やっぱり。

Memorial Collection / Buddy Holly (Geffen/Decca), Down The Line: Rarities / Buddy Holly (Geffen/Decca)2009/02/11

Memorial Collection & Down The Line

ドン・マクリーンが名曲「アメリカン・パイ」の中で“The day the music died”、音楽が死んだ日、と表現した1959年2月3日。そうです。バディ・ホリー、リッチー・ヴァレンス、ビッグ・ボッパーの命を奪った、あの悲劇の飛行機事故から今年で50年。ということで、偉大なロックンロールのオリジネイターのひとりであるバディ・ホリーの死を悼み、その才能を改めてたたえようと、米Geffenが2組、バディ・ホリーのアンソロジーを編んだ。

ひとつは、基本的に代表的録音満載の表アンソロジー『メモリアル・コレクション』。もうひとつがレア音源満載の裏アンソロジー『ダウン・ザ・ライン~レアリティーズ』。前者がCD3枚組、後者が2枚組。両方あわせて、かつてマニアの感涙を呼んだLPボックス『ザ・コンプリート・コレクション』的なものになるってことかな。『コンプリート…』をそのままCD化してくれれば話は早いのに、と。誰もが思っていそうだけど。そう思う人は、もうブートで買っちゃってるか(笑)。何はともあれ、うれしいリリースです。

重要なレパートリーを総まくりした『メモリアル・コレクション』のほうにも初期のレア音源や、他界する直前、58~59年にマリア・エレーナ奥様のニューヨークのアパートメントで録音された伝説の音源のアンダブド・ヴァージョンなどが入っていたりもするが。熱心なファンには、やはり『ダウン・ザ・ライン』のほうがぐっとくる。13歳のときに自宅で録音されたハンク・スノウのカヴァーに始まり、50年代にボブ・モンゴメリーとのデュオ“バディ&ボブ”名義で録音された音源、まだバディ・ホリー&ザ・クリケッツと名乗る前、デッカに売り込みのために送られたアセテート盤音源を含むバディ・ホリー&ザ・スリー・チューンズ名義での録音、56年にテキサス州ラボックにあったバディ・ホリーの家のガレージで録音されたロックンロール・セッションからの音源、57~58年の録音からザ・ピックスのオーヴァー・ダブ・コーラスを抜いた音源やファルス・スタート系の音源、作曲用のデモ、そしてニューヨークのアパート音源などなど。

まあ、ファンにはおなじみどころのレア音源がずらりと並んでいるわけだが。バディ&ボブ音源の中には63年になってからファイアボールズがバック演奏をオーヴァーダブしたテイクしか出ていなかった曲もあって。そのうち、両アンソロジーあわせて5曲のアンダブド・ヴァージョンが今回初お目見えしている。ここが目玉かな。ニューヨーク・アパートメント・テープに残っていたマリア・エレーナとの会話も公開されていて、これも興味深い。

バディ・ホリーがロックンロール黎明期に成し遂げた功績は本当に大きい。プロデューサーであるノーマン・ペティとの共同作業のもと、先達レス・ポールの試行錯誤に影響されながら、ダブル・トラッキングを多用したレコーディングを行なったり。一発録りではなく、コーラスなどを後でダビングする形式を確立したり。ジェリー・アリソンのタム・ロールを強調したドライヴ感あふれるサウンドをクリエイトしたり。そして何よりも、サックスとピアノ中心だった従来の50年代型バンド編成をぶちこわし、ギター2本にベース、ドラムという現代に通じるバンド・スタイルを確立したり。

ロマンチックな歌詞も素敵だ。ちょっと青く、甘ずっぱく、楽天的なティーンエイジ・ヴァイブレーション。そんな気分を表現するために、バディ・ホリーは独特のリズミックな言語感覚を駆使した。「メイビー・ベイビー」とか「オー・ボーイ」といった曲名にもその傾向が見て取れるし。曲中に“プリティ・プリティ・プリティ・プリティ…”と、子供言葉ふうのくり返しを多用したり、“ア・ヘイ、ア・ヘイ・ヘイ…”という掛け声を折り込んだり、“well”という単語を“ア・ウェラ・ウェラ・ウェラ…”と発音してみたり。様々な試行錯誤の果てに、裏声と地声を巧みに交錯させた器楽的唱法や、今やロックンロール・ヴォーカルには欠かせないヒカップ唱法が完成した。

偉大です。改めてたたえましょう。そうそう。宣伝ですが。左の告知欄でもお知らせしている通り、今月のCRTイベントはバディ・ホリーが主役。お時間のある方はぜひ。一緒にお賑やかにバディ・ホリーの功績をたたえましょう。萩原祐子も DaDooRonRon.com のほうでお知らせしてます。そちらもぜひご一読を。

Paranoid Cocoon / Cotton Jones (Suicide Squeeze)2009/02/13

Paranoid Cocoon / Cotton Jones

CRTバディ・ホリーまつりも近づいてきて。前回紹介した2種のアンソロジーを聞きまくっているのだけれど。バディ・ホリーの音楽って、どうしようもなくテキサス州ラボックの音というか。あるいは、ノーマン・ペティのスタジオがあったニューメキシコ州クロヴィスの音というか。亡くなる直前、ニューヨークで録音されたアパートメント・テープスでさえ、そういう匂いを強くたたえていて。

いわゆるスモール・タウン・ロックンロール。その空気感が絶対に抜けなかったところが、逆に時代を超えて、地域性すら超えて生き延びてきた理由のひとつなんじゃないか、と。そんなことを改めて感じてます。

つーか。ぼくは実際にラボックにもクロヴィスにも行ったことはないわけで。すんません。知ったかぶっちゃいました(笑)。ラボックっぽさとかクロヴィスっぽさとか、知っているわけでも何でもない。すべて想像です。ただ、ラボックってところの映像を見たりすると、これが想像以上に何もなさそうなところで。

ボブ・ディランを生んだミネソタ州ドゥルースの映像を見たときも思ったことだけれど。こういうところで、ネイションワイドなシーンめがけて思いをはせるってのは、とてつもなくダイナミックな作業なんだろうな、と。想像はつかないけど、想像してみたりするわけです(笑)。そのあたりのことも、来週ネイキッド・ロフトで検証できたら面白そう。ラボックに行ったことがある宮治本部長もいるしね。

と、そんな気分で、ちょっと前に買ったコットン・ジョーンズのアルバムを聞いてみたら、これがやけに魅力的に響いてきた。コットン・ジョーンズは元ページ・フランスのマイケル・ナウがホイットニー・マッグローを引き連れてスタートさせた新プロジェクト。確かEPみたいなのがすでに出ていた気がするけれど、これが初フル・アルバムらしい。メリーランド州カンバーランドを本拠に活動するスモール・タウン・バンドで。ウッドストック在住期のヴァン・モリソンをウィル・オールダム方面に脂抜きした感じというか、ウィルコがドノヴァンのバックをつとめている感じというか、すっごい遠いところで演奏しているザ・バンドというか…(笑)。

なんだかよくわかりませんが。そんな魅力的な1枚に仕上がってます。

Uncle Charlie / Charlie Wilson (Jive/Zomba)2009/02/21

Uncle Charlie / Charlie Wilson

水曜日のバディ・ホリー50回忌。たくさんご来場くださってありがとうございます。

バディ・ホリーをテーマに、あれだけの数のお客さんと盛り上がれて、本望です。つーか、テキサス州ラボックとか、トミー・オルサップとか、ヴァイ・ペティとか、普段人前では絶対に声に出して言ったことがない単語を何度も口にした夜だったもんで。それだけで宮治もぼくも舞い上がり気味で(笑)。イベントの進行があっち行ったりこっち行ったりだったかも。ごめんなさい。

さて、今日のピックアップ・ディスクは、そんなバディ・ホリーとはまったく関係なく、元ギャップ・バンドのチャーリー・ウィルソンの新作。3年ぶりくらいすかね。自らのニックネームを堂々と冠した1枚だ。

曲によってザ・アンダードッグ、T-ペイン、スターゲイトなどがプロデュースを担当。前作から引き続きのスヌープ・ドッグや、ジェイミー・フォックスらもゲスト参加。参加している連中の顔ぶれからも想像できるような今っぽいアーバンR&Bが基本だけれど、必殺/黄金のコード進行をともなったスウィートなメロディも頻発して。ソウル系で普段聞くのはもっぱら70年代ものまで、みたいな、ぼくのようなおっさんファンにはそっち方面が特に胸にくる。その種の曲は生楽器で演奏してくれればなぁ、と、お古い音楽ファンとしては思ってしまったりもするのだけれど、それはきっと現在のR&Bシーンに深く入りきれない者ならではのKY発言っすね。

R・ケリー色が濃かった前作も強力だったけれど、ぼくは今回のほうが好きかも。いずれにしても、ほんと、この人、いい声だな。ぐっと抑えた表現をするときもエモーショナルで。泣けます。