Electric Dirt / Levon Helm (Dirt Farmer Music/Vanguard)2009/07/14

Electric Dirt / Levon Helm

SG@東京ドーム。

というと、普通われわれプロ野球ファン的にはヤクルト×巨人なわけですが。今回はサイモン&ガーファンクル。先週の土曜日に見てきました。よかったなぁ。素晴らしかった。最近は仲がいいんだか悪いんだか、その辺のことはよくわからないけど。やっぱりこの二人が並んで歌うと魔法が生まれる。ぐっときました。

内容的には、03年以降のオールド・フレンズ・ツアーの延長線上で。一緒に見に行った萩原祐子もブログで感想を書いているので、ぜひそちらもご参照ください。彼女も触れていたけれど、「ミセス・ロビンソン」の途中でパーカッションの人がマラカスを振り始めて、ギターがトレモロかけた音色で二拍三連のコード・カッティングを始めて。あれー…と思っていたら、そのまま「ノット・フェイド・アウェイ」に突入した瞬間は特に泣けた。盛り上がった。以前のセントラル・パークのコンサートでも「コダクローム」から「メイベリーン」になだれ込んだり、こういうお遊びを彼らはよくやるのだけれど。

サイモン&ガーファンクルというと、“洗練されたフォーク”とか“新緑のようなハーモニー”とか、そういう側面からばかり語られがちだけど。彼らのロックンロール感覚はなかなかのものだ。さすがニューヨーカー。もともとエヴァリー・ブラザーズをパクったトム&ジェリーなるロックンロール・デュオとしてデビューしているわけだし。今回もジーン・ヴィンセント、楽しそうに歌ってたし。サイモンのソロ・コーナーで披露された「グレイスランド」でも、いつにも増してロカビリーっぽいギター・フレーズが聞かれたし。

サイモン&ガーファンクルといして大当たりする前、サイモンにはホワイト・ドゥーワップ系のソロ・シングルがあった。ガーファンクルにもティーンエイジ・アイドルっぽいソロ・シングルがあった。泣く子も黙る大ヒット「明日に架ける橋」にしても、フィル・スペクターゆかりのミュージシャンを多数集め、スペクター愛用のスタジオで、スペクターの画期的な録音ノウハウを活かした壮大な音像の作品で。要するに、声が高いライチャス・ブラザーズというか。そんな感じだったし。

なわけで、ああ、こいつらやっぱりロックンロールが大好きなニューヨーカーなんだなぁ、と。そんな事実をほのぼの再確認できたうれしい夜でした。もちろん、客席で周りを見渡してみると、そんなことどうでもいいというか、だからどうしたというか、「ノット・フェイド・アウェイ」なんかもともと知らないというか、そういう空気で。いや、別にそれでいいと思います。そういう楽しみ方でも十分元が取れるクオリティをたたえた音楽なわけで。特に不満もないんだけど。

ただ、エヴァリーとかバディ・ホリーとかジーン・ヴィンセントとかライチャスとかを知ったうえで聞くサイモン&ガーファンクルってのもいいんだよなぁ。そういう楽しさをもっと日本のリスナーにも味わってもらいたいもんだなぁ、と。余計なお世話とは知りつつ、ついつい思ってしまうおせっかいなハギワラなわけです。ポップスは学習だから。知れば知るほど面白くなるから。

今日紹介するリヴォン・ヘルムの新作もそう。もちろんこれ単体でごきげんに痛快な1枚なんだけど。全11曲中、書き下ろしは1曲のみ。残りがすべてカヴァー曲で。そのオリジナル・ヴァージョンを知って聞くのと知らないで聞くのとでは別物というか。できることなら、グレイトフル・デッド、ステイプル・シンガーズ、ハッピー&アーティ・トラウム、マディ・ウォーターズ、スタンリー・ブラザーズ、ランディ・ニューマン、オラベル、ニーナ・シモン…と、このあたりも知ったうえで、この新作の良さをみんなで分かち合えたら最高なんだけどな、と。考えてみれば、毎月CRTイベントをやっているのも、そういう思いからだったりします。このリヴォンの新作の国内盤が出るのは来月かな? 再来月かな? とにかく、そういう思いをこめて、各楽曲の出自に触れたライナーを書かせてもらいました。興味のある方はぜひ国内盤の発売を待ってやってください。ソニーから出ます。

96年に喉頭ガンと診断されて、もうかつてのようには歌えなくなっていたリヴォンですが。やっぱりこの人は並じゃない。奇跡的な回復を遂げて、またあのソウルフルな歌声がよみがえった。往年の太さはさすがにないけれど、渋みと説得力が歌声に加わって。そんな歌声を07年、傑作アルバム『ダート・ファーマー』に刻み込んで。大復活。グラミーにも輝いて。で、その続編として勇躍リリースされたのが本盤『エレクトリック・ダート』。

プロデュースは前作同様、ラリー・キャンベル。カントリー・ロック・バンド、オラベルのメンバーとしても活躍中の娘さん、エイミー・ヘルムも前作同様しっかりお父さんをバックアップ。アパラチアン系のアコースティック・サウンドが印象的だった前作に対して、今回はバンド・サウンドというか。リヴォンの柔軟で躍動的なドラミングも大いに活かされた仕上がりになっている。ゴスペルっぽさが強調されているのもいい感じ。ホーン・セクション入りの曲が4曲あって。2曲がアラン・トゥーサンのアレンジ。残り2曲がニッティング・ファクトリー系のスティーヴン・バーンスタインのアレンジ。

ザ・バンドでも取り上げていた曲の再演も含めてマディ・ウォーターズのカヴァーが2曲あって。これは前作のレコーディング・セッションで録音されたものらしい。どちらもストレート・アヘッドなアコースティック・ブルース・サウンド。これもいかしてる。ボブ・ディランより1歳上の69歳。ディランとかこの人とかの現在を見ていると、もう圧倒されるしかないです。『トゥゲザー・スルー・ライフ』と組にして聞きたい1枚っすね。