Ned Doheny / Ned Doheny (Asylum/Collectors' Choice Music)2009/07/03

Ned Doheny / Ned Doheny

10年ほど前、日本で独自にCD化されたことがあったけれど。長らく市場から姿を消していたネッド・ドヒニーのファースト・アルバムが再発された。

アサイラムから1973年にリリースされたこのアルバムをめぐる今回のCD化。けっこうややこしくて。今回ここで取り上げたのはUS盤。米コレクターズ・チョイスによる本国初CD化だ。これが先月だったか先々月だったかにリリースされて。その輸入盤に簡単な(というか、ひどく大ざっぱな)日本語ライナーを添えた盤も出て。続いて、来月になると本家ワーナーからSHM-CD仕様で限定再発されるらしく。

まあ、アメリカではこのコレクターズ・チョイス盤のみが出ているだけなので簡単だけど。日本では3種類の流通があることになっちゃう。めんどくさいっすね。まあ、どれ買ってもいいと思いますが。いちばん安く入手できるのが米コレクターズ・チョイス盤でしょう。以前出た日本のCDに比べて、格段にリマスター音質も向上している。今度出るワーナー盤の音は聞いていないけれど、特にボーナスが追加されるって噂もないので、こっちでいいんじゃないかな。

ただ、ジャケットはけっこう粗い仕上がりです。ワーナー盤は以前の再発と同じくタイトル文字が黒のUSパターンになるようだけど、コレクターズ・チョイス盤はタイトル文字が白のUKオリジナル盤仕様。73年に東芝から配給されたアナログLPと同じデザインになっている。いやー、混乱してますねー(笑)。

ネッド・ドヒニーというと76年、スティーヴ・クロッパーをプロデューサーに迎えてリリースしたファンキー&メロウなセカンド・アルバム『ハード・キャンディ』の評価が高くて。ぼくも大好きなアルバムではあるけれど。実はこっちの、ファーストへの思い入れのほうが深い。アコースティック・ギターを核にした、ちょっぴり素朴な音作りのもと、ドヒニー持ち前のブルー・アイド・ソウル感覚が存分に発揮されていて。ごきげん。

初めて手にしたのは高校3年のときだったか、大学1年のときだったか…。アサイラム第1期発売として同時期に世に出た連中というと、イーグルス、ジャクソン・ブラウン、トム・ウェイツ、ジュディ・シルなど、そうそうたる顔ぶれ。そんな中ではひときわ地味な存在ではあったけれど、フォーク~カントリーのイメージが強いシンガー・ソングライター系アーティストの中で、ぐっとポップ・ソウル色の強いこの人の個性はとても新鮮で。ジェースム・テイラーやエリック・カズ、ティム・ムーアあたりと一緒に、当時毎日聞きまくったものです。まだアダルト・コンテンポラリー・サウンドが確立する直前の手触りが、たまりません。

Bible Belt / Diane Birch (S-Curve)2009/06/26

Bible Belt / Diane Birch

訃報ばっかりで…。

大きな時代の変わり目が来ているってことかな。世紀が本格的に変わるのに10年かかるって話もあって。そういう意味では、20世紀がとうとう終わった、と。マイケル、ファラ、ジェイ・ベネット、ボブ・ボーグル、ケニー・ランキン、バリー・ベケット…。r.i.p.

20世紀は終わっても、20世紀の遺産は今も生き続けています。萩原祐子に教えてもらった新人シンガー・ソングライター、ダイアン・バーチ。もう輸入盤屋さんでは大いに盛り上がっているようですが。ローラ・ニーロ、キャロル・キング、カーリー・サイモン、フィービ・スノウ、スティーヴィ・ニックス、カーペンターズなどなど、60~70年代の偉大なアーティストたちを想起させる要素がアルバムのそこかしこにちりばめられていて。おじさんの涙腺がゆるみます。エルトン・ジョンっぽい曲もあります。いいもの教えてもらいました。

牧師の娘さんだとかで。ミシガン生まれながら、世界各国を転々としてきたらしい。それゆえ、古き良きアメリカの遺産のようなものに冷静なまなざしで素直に対することができたのかもしれない。アルバム・タイトルも含め、どういう宗教観/人生観を持った人なのか、微妙なところだけれど。その辺はおいおい聞き込んでみようかな。わかりやすく敬虔な思いを託した「フォーギヴネス」なんて曲もあって。アレサ・フランクリンあたりに通じるゴスペル感覚も炸裂している。

まだまだ“薄い”面もないわけじゃないけれど、ソウル・クイーン、ベティ・ライトをはじめ、興味深いスタッフ陣がかっちりバックアップ。今後が楽しみな個性です。

The Ventures in Japan / The Ventures (Liberty/EMI)2009/06/16

The Ventures in Japan / The Ventures

 このところ、ケニー・ランキンが亡くなったり、バリー・ベケットが亡くなったり。訃報が次々立て続けに飛び込んできて。淋しい思いをしていますが。今また、ボブ・ボーグルが亡くなったという衝撃のニュースが伝わってきました。

 ご存じ、ベンチャーズの創設メンバーのひとり。近年は体調が思わしくなく、05年以降、恒例の来日ツアーにも参加しなくなっていて。日本のファンもみんな大いに心配していたものですが。ついにそのときがやってきてしまいました。長い闘病ののち、現地時間の6月14日、地元ワシントン州ヴァンクーヴァーで他界。享年75。

 彼らがロックンロール・ヒストリーで果たした大きな役割については、先日出した新書『ロック・ギタリスト伝説』でもたっぷり書かせてもらいましたが。特に、もともとリード・ギタリストだったボブ・ボーグルが、名手ノーキー・エドワーズと交替する形でベーシストの座についたことも、彼らの唯一無二のサウンド作りに大きく貢献しました。元ギタリストならではの、ハイ・ポジションも駆使したボブのスピーディなベース・フレーズが、故メル・テイラーの突っ込み気味のドラムと一体となって生み出すロックンロール・グルーヴは本当に最高でした。

 そんなわけで、今回のピック・アルバムはニュー・リリースではなく。ボブ・ボーグル、ドン・ウィルソン、ノーキー・エドワーズ、メル・テイラーという最強のフル・ラインアップによる初来日を果たし、日本中をエレキの熱狂に巻き込んだ65年1月のライヴ・パフォーマンスを収めた大傑作アルバム。今なお色あせぬ歴史的ライヴ演奏を聞きながら、ボブ・ボーグルの冥福を祈りましょう。

 あまりにも何度も来日してくれるので、ベンチャーズのことを、日本でしか人気のない“歌のない歌謡曲バンド”と思い込んでいるフトドキな方もいらっしゃるようですが。そういう方は、08年、ベンチャーズがロックンロール名誉の殿堂入りを果たしたときの模様がYouTubeにもアップロードされているので、ぜひそちらもご覧ください。ステージ上にはすでにボブの姿はないけれど、元気なころのインタビューやステージでの様子なども挟み込まれています。



The Excitement Plan / Todd Snider (Yep Roc)2009/06/15

The Excitement Plan / Todd Snider

ニール・ヤングのアーカイヴスがようやく届いて。ここでも紹介したいなと思ってはいるんですが。なにせブルーレイ10枚組。なかなか全部を視聴できません(笑)。すべてを味わい尽くせるのはいつのことになるのやら。

てことで、今回ご紹介はトッド・スナイダー。ストーリーテリングの巧みさにかけて、抜群の魅力を持つナッシュヴィルのシンガー・ソングライター、8作目のスタジオ・アルバムだ。ユニヴァーサル傘下のニュー・ドア・レーベルから06年に出たひとつ前のフル・アルバム『ザ・デヴィル・ユー・ノウ』では、メジャーからの再出発ってこともあってか、気合一発、久々にデビュー当時を思わせるロック魂を爆発させていたスナイダーさんですが。今回は00年にジョン・プラインのオー・ボーイ・レーベルに移籍してからの諸作に通じるアコースティカル&ルーツィな方向性。やっぱ、こっちのほうがしみます。(オー・ボーイからの移籍第一弾のこと、その昔、ここで軽く紹介してます。ご興味のある方はどうぞ)

プロデュースはドン・ウォズ。ウォズと、グレッグ・レイズと、ジム・ケルトナーがさりげなく、しかし的確なバッキングを提供している。ほとんどリハーサルせずに、ほんの2日半でアルバム1枚完成させてしまったらしい。ラフさとシンプルさがいい方向に出た仕上がりだ。隙間が心地よい。

収録曲は基本的に自作。でも、1曲ロレッタ・リンと共作していたり、テキサス出身のシンガー・ソングライター、ロバート・アール・キーン・ジュニアの曲を取り上げていたり。そのあたりも興味深い。曲によってはランディ・ニューマンにも通じるグッド・オールド・タイミーかつシニカルな表情を感じさせてくれたりもして。時にはソウルフルでもあり。歌詞はまだ把握しきれてませんが、相変わらず知的にやさぐれている感触もあって。やっぱ、この人の底力、なかなかのものっすね。

The Complete Liberty Singles / Gary Lewis & The Playboys (Collectors' Choice/EMI)2009/05/30

The Complete Liberty Singles / Gary Lewis & The Playboys

世襲ってのがいろいろ話題になってますが。

ポップ・ミュージックの世界にもたくさんの二世がいる。イナラ・ジョージ、マイリー・サイラス、ルーファス・ウェインライト、ジェイコブ・ディラン、ロザンナ・キャッシュ、ムーン・ザッパ、ドウィージル・ザッパ、デビー・ブーン、ダラ・セダカ、クリス・スティルス、ベック、ウィルソン・フィリップス、ジュリアン・レノン、ジェフ・バックリー、リサ・マリー・プレスリー…。テキトーに思いだしただけで膨大な数の二世アーティストの名前が頭に浮かぶ。カントリーの祖、ハンク・ウィリアムスの息子のハンク・ウィリアムス・ジュニア、さらにその息子のハンク三世みたいに親子孫三代に及ぶ連中もいるくらいだ。ポップ・ミュージックの歴史も長いっすね。まじに。

二世シンガーのやり方というのは大きく二通りあって。リー・ヘイズルウッドやビリー・ストレンジといった有能なプロデューサー/アレンジャーを得て、ほんの数年間とはいえ父親とはひと味違う独自のポップ路線を切りひらいたナンシー・シナトラになるのか、父親とも親交の深いドン・コスタらをプロデューサーに、父親同様のスタンダード寄り路線で地味な歩みを続けたフランク・シナトラ・ジュニアになるのか。この辺、誰もが悩むところだろうけど。聞く側としては、まあ、どっちもがんばれ、と。親戚の子のピアノ発表会を見るような気分で応援してしまう。

で、そんな二世アーティストの中でも、ぼくが特に好きなのはこの人、ゲイリー・ルイスだ。ご存じ、ジェリー・ルイスの息子さん。基本的には俳優というかコメディアンというか、そういう人の息子なので、ちょっと畑違い気味だけど。お父さんもレコード出してるし、息子も俳優やってるし。いいんじゃないでしょうか。

1946年、ニューヨーク生まれ。その後、西海岸へと移り、64年にロサンゼルスで仲間とロック・バンドを結成。それがゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズだ。ディズニーランドへのレギュラー出演をきっかけにリバティ・レコードと契約したってエピソードもごきげん。ウソでもOK。名プロデューサー、スナッフ・ギャレットの後押しを得ながら65年以降、「恋のダイアモンドリング」「カウント・ミー・イン」「君のハートは僕のもの」「涙のクラウン」「あの娘のスタイル」など次々と大ヒットを連発した。

そんな彼らが1965~70年にリバティからリリースしたシングル盤のAB面、コンパクト盤音源、プロモ盤音源などを総まくりしたコンピレーションが今回のピック・アルバムだ。いい意味でおぼっちゃんっぽいゲイリーのイノセントなヴォーカルと、スナッフ・ギャレット、レオン・ラッセルら腕利きスタッフがレッキング・クルーの面々を駆使しながらその才能を余すところなくつぎ込んだ珠玉のポップ・サウンドとの素晴らしい合体。ゲイリー・ルイス&ザ・プレイボーイズのオリジナル・アルバム群の再発もそれなりに実現してはいるけれど、やはりアルバムよりもシングルで楽しむべき人たちだけに、このコンピこそが必殺って感じ。

ギャレット/ラッセル/ルイス作の名曲の数々はもちろん、ゲルド&ユデル、スローン&バリ、クック&グリーナウェイ、アル・クーパーなど素敵なソングライターたちの“いい仕事”を満載。初夏に聞くには最適なんじゃないすかね。