Tennent - Morrison / Tennent - Morrison (Polydor/VIVID SOUND)2010/04/16

Tennent - Morrison

教則ビデオ。楽器の弾き方を映像で指導するアレ。あれが好きでねー。家庭にビデオデッキが普及し始めてからはほとんどビデオになったけれど、昔はソノシートとかレコードとかカセットとかで教えてくれたものです。ご存じ、Grecoが制作した成毛滋のロック・ギター・メソッド(だっけ?)とか。ベンチャーズの『プレイ・ギター・ウィズ・ザ・ベンチャーズ』とか。

昔、Tokaiのテレキャスター・モデルにストリング・ベンダーを組み込んだ“クラレンス・ホワイト・モデル”ってやつが出たことがあって。バーズ・ファンだったぼくとしては当然これを買ったわけですが。そのときも教則レコードが付いてきた。でも、教則ブックレットとかは一切なし。ペラ1枚の説明書もなし。あるのはレコードのみ。なもんだから、とにかくレコード盤だけで全部説明しなきゃならないもんだから、楽器を弾きながら、口頭で、「まず3弦12フレットを薬指で押さえて、2弦10フレットと1弦10フレットを人差し指で押さえて、3弦、2弦、1弦とピッキングしたあとベンダーを…」とか(笑)。しかも、全部英語だし。ややこしいったらなかったなぁ。めんどくさくなって、結局、独学でベンダーの使い方を覚えたものです。

その後、映像で教えてくれる時代がやってきたのだけれど。そうなると、けっこう著名な奏者が自ら教える教則ビデオがたくさん出るようになって。レコードにはなっていないごきげんな演奏を披露したりしていて。楽器の勉強のためというより、貴重なパフォーマンスを楽しむためのアイテムとして、あれこれコレクトしたものです。ドナルド・フェイゲンのクレイジーなコード・プログレッション感覚に頭がくらくらする教則ビデオとか、ダニー・ガットンの誰にも真似できないウルテクが炸裂するおかげで教えてもらっても結局真似できない教則ビデオとか、指がむちゃくちゃ長くて普通だったら絶対に届かないようなフレットまで軽く押さえちゃうエイモス・ギャレットの教則ビデオとか…。こうなってくると、もう学ぶためのビデオじゃなく、鑑賞するためのビデオだ。

と、そんな教則ビデオ。毎月やってるCRTで一度はテーマに据えたいと思っていたのだけれど。ついに今度の日曜日、4月18日、教則ビデオ・ナイトが実現します。詳しくは左の情報欄を参照してください。うれしいなぁ。楽器をやらない人はあまり興味のないテーマかもしれないけれど、さっきも書いたように、見たり聞いたりするだけでごきげんなビデオも多いので、そこに記録された未レコード化のパフォーマンスを楽しむだけでも楽しいはず。お時間ある方はぜひ参加してみてください。高田漣くんに教えてもらったラリー・グラハムの教則ビデオとか、もうとてつもないです。パフォーマンスがかっこいいことはもちろんだけど、しゃべりもごきげん。ベースを教えるってより、人生を語りあげてる感じ(笑)。爆笑必至。

リヴィングストン・テイラー、ポール・マッカートニー、ロジャー・マッギン、ジェームス・バートン、ブライアン・セッツァー、リック・ダンコ、ジョン・セバスチャン、B.B.キング、青山陽一などなど、まあ、ぼくがギター好きなもんだから、集めているものがどうしてもギター寄りになってしまうのだけど、あれこれ取りそろえてます。どこまで紹介できるかわからないけれど、みんなで感心したり爆笑したりしながら学びましょう(笑)。

あ、それから、いまだボブ・ディラン来日の熱が冷めないぼくは、今度出る『現代思想』のボブ・ディラン別冊でディスコグラフィを担当させてもらいました。といっても、普通のディスコグラフィって感じじゃなく、もう巻物みたいな原稿(笑)。400字詰めの原稿用紙にして130枚とか140枚とか、そんくらいのボリュームです。半分以上を60年代の作品に割いちゃったという、なんともバランスの悪い原稿ですが。そこんとこはひとつお許しいただいて。よろしければ読んでみてください。

さて、もろもろの業務連絡を終えたところで、今回のピック・アルバム。これはびっくりした。英国発ながらまるでウッドストックで録音されたような手触りが70年代初頭、輸入盤マニアの間で静かな評判を呼んでいたシンガー・ソングライター・デュオ、テネント-モリソンの72年盤『テネント-モリソン』の世界初CD化です。スロー系の曲ではさすがイギリス人らしい、魅力的な陰のようなものも感じられて。しみます。「グッド・フォー・ユー」の柔軟なグルーヴ、好きだったなぁ。ジミー・マカロックをはじめ、バックの面々も興味深い顔ぶれ。実質的には彼らのセカンド・アルバムといった風情の、ジョー・ソープ名義のアルバムも同時に出ます。

Theme Time Radio Hour: Season 2 / Various Artists (Ace)2009/10/14

Theme Time Radio Hour: Season 2

ボブ・ディランのクリスマス・アルバム、輸入盤が出回りだしたようですねー。最高にごきげんなホリデイ・アルバムに仕上がってます。『シーム・タイム・レディオ・アワー』のクリスマス特集とか聞いていたので、もっとひねくれた選曲になるのかと思っていたら、かなり直球の選曲になっていてびっくり。そのあたりの真意をあれこれ探ってみたものの、ディランのことだけに、結局よくわからず。萩原祐子がずばり言うには、「子供が生まれたみたいだから、いいとこ見せたかったんじゃないの?」と。案外、これ、当たりかも。

で、まあ、今のイチオシは当然ディランのクリスマス・アルバムってことになるわけですが。これ、来月、国内盤が出る予定で。ライナー、ぼくが書かせてもらいました。またまた長文になっちゃいましたが。それも読んでいただきたいので(笑)、待てる余裕のある方はぜひ国内盤を待ってやってください。今回ディランは、たとえば彼が「激しい雨が降る」を書くきっかけになったキューバ危機のとき、別の視点から平和への願いを託して書き上げられた「ドゥー・ユー・ヒア・ホワット・アイ・ヒア」を取り上げていたり、第2次対戦中に派兵されていた兵士たちの郷愁に訴えた「アイル・ビー・ホーム・フォー・クリスマス」や「ハヴ・ユアセルフ・ア・メリー・リトル・クリスマス」を取り上げていたり、長い歌詞の中で普通なら1番、2番、5番あたりを抜粋することが多い「ベツレヘムの小さな町」を、あえて1番と3番を抜粋したフランク・シナトラ・ヴァージョンでカヴァーしていたり。あちこち深読みしがいのある内容になっているので。このあたり、ぜひ対訳付きの国内盤で…みたいな(笑)。

というわけで、今日は違う盤を紹介します。最近はTwitterのおかげで、けっこう気がすんじゃってて。なかなかブログに手を付ける気にならないというか。そういう人、多そうな気がするのだけれど。間が空いちゃって、何を紹介したらいいやらわかりません。なもんで、今さらながらではありますが、輸入盤が先月半ばくらいに出回りだしたディラン絡みのコンピレーションを。

DJボブ・ディランが毎回テーマを決めて、それに沿った選曲と独特の語りで楽しませてくれた衛星ラジオ番組の公式コンピレーション第2弾です。07~08年にオンエアされたシーズン2でかかった曲の中からセレクトされた50曲。ワンダ・ジャクソン、フランキー・リー・シムズ、リトル・エスター、ジョージア・クラッカーズ、ミリアム・マケバ、モーズ・アリソン、ジョー・メイフィス、ビリー・ホリデイ、ルシンダ・ウィリアムス、エディット・ピアフ、スワンプ・ドッグ、キャプテン・ビーフハート、ニルソンなど、時代もジャンルも縦横に飛び回りつつのひねりの効いた選曲が楽しめる。1曲ごとの詳細な曲解説もうれしい。執筆者の中にはアル・クーパーの名前も…。

A Strange Arrangement / Mayer Hawthorne (Stones Throw)2009/09/06

A Strange Arrangement / Mayer Hawthorne

9月に入って、予想通りすっかりビートルズっぽい世の中に。もちろん、ぼくもビートルズ特需、恩恵を被ってます。ミュージック・マガジン社とかロッキン・オンから出るビートルズ増刊みたいなやつにも執筆させてもらってますし、9月11日に放送予定の『タモリ倶楽部』でも今回のビートルズ・リマスターの聞き比べ企画みたいなやつをやらせていただきました。まあ、『タモリ倶楽部』ですから。全然アカデミックではないですが(笑)。おぎやはぎや近田春夫さんと楽しくビートルズを語ってます。よろしければ見てやってください。NHKで放送される『よみがえるビートルズ』完全版の放送時間のちょっと前です。前座として、ぜひ(笑)。

あと、9月22日のCRTビートルズまつりも、ぜひ。左のインフォメーションをご参照のうえ、こぞって参加してください。前日はおなじみ宮永教授のビートルズ大学。てことで、それに先駆けて9月18日には新宿タワー・レコードで、ぼくと宮永教授、二人でトーク・イベントもやります。詳しくはこちらへ。

とはいえ、ビートルズのリマスター盤はまだ出てないわけで。出るまでは聞いた感想を公の場で発言してもいけないそうなので。他のアルバムの話をしましょう。いいの出ましたよ。また。

ミシガン州アン・アーバー出身の白人アーティスト。もともとはヒップホップ畑でDJとして活動していたようだけれど、遊び半分でオールド・ソウルのパロディっぽいデモ・テープを録音してみたところ、それがストーンズ・スロウ・レコードのピーナッツ・バター・ウルフの手に渡って、去年の暮れにシングル・デビュー。ボビー・コールドウェルばりのハート型の盤が話題を呼んだフィリー・ソウルっぽいデビュー・シングル「ジャスト・エイント・ゴナ・ワーク・アウト」に続いて、もう1枚、ドラマティックスとかデルズとかを思わせる「メイビー・ソー、メイビー・ノー」を出して、いよいよフル・アルバムの登場です。

トム・ベル、ギャンブル&ハフ、スモーキー・ロビンソン、ホーランド=ドジャー=ホーランド、カーティス・メイフィールドといった先達からの影響をふんだんにたたえたブルー・アイド・ソウル的世界観は、最近人気のレトロ・ソウル系の若手アーティスト群にまとめられちゃいそうだけれど。まったく打ち込みを使わず、アナログにこだわった音作りがむしろ新味。

ただ、あんまり歌がうまくなくて。そこが物足りないと言えば物足りないのだけれど、逆に往年のエリック・カズとか、ジョン・サイモンとか、黒人音楽の影響を強く受けた音楽性を訥々とした歌声で綴る白人アーティストのムードと二重写しになったりして。おじさんとしては切なく胸が躍ります。

Taking Care of Business: 1956-1973 / Freddie King (Bear Family)2009/08/31

Taking Care of Business: 1956-1973 / Freddie King

日本は変わりますかね? 変わってほしいっすね。心からそう思います。

でも、ぼくが聞いている音楽は相変わらず。エリー・グリニッチやラリー・ネクテル、ウィリー・デヴィルらの訃報が次々と舞い込み、自分がいきいきと属していた時代の本格的な終焉を思い知りつつも、結局心は50~70年代へ。というわけで、今回もそんなアルバムのご紹介。フレディ・キング、究極のボックス・セットです。タイトル通り1956年から73年まで、エル・ビー、フェデラル、キング、コティリオン、シェルターといったレーベルに残された全てのスタジオ音源168トラックを7枚のCDに詰め込んだ箱です。誰よりもでかい音で、誰よりも凶悪なギター・プレイを聞かせたフレディ・キングのごっついブルース・スピリットをおなかいっぱい、これでもかと浴びるように楽しめる仕上がりです。

「ハイド・アウェイ」「サン・ホー・ゼイ」「ロウ・タイド」「ウォッシュ・アウト」「ドライヴィング・サイドウェイズ」「レミントン・ライド」「ロンサム・ホイッスル・ブルース」など、必殺のヒット・チューンはもちろん、未発表音源も満載。「ユーヴ・ガット・トゥ・ラヴ・ハー・ウィズ・ア・フィーリング」とか「ハヴ・ユー・エヴァー・ラヴド・ア・ウーマン」とかの未発表別テイクも聞けます。68年、ダラスで収録された未発表デモ・セッション(J.B.ルノアの「ザ・モジョ」もやってる!)もコンプリートで楽しめるし。タイトルすら付けられていない未発表インストも3曲くらい入っているし。

テキサス・スタイルとシカゴ・スタイルとが絶妙に入れ乱れるフレディ節の魅力を改めて思い知ることができる。エリック・クラプトンにせよ、ヴォーン兄弟にせよ、フレディ・キングの影響を受けていないブルース・ギタリストなんていないというか。フレディ・キングの影響を受けてなければブルース・ギタリストじゃないとすら思う。あ、もちろんギターだけじゃなくて、ヴォーカルもごきげんです。

この人の場合、いろんな時代のいろんなベストがたくさん編まれてきたけれど。どれも一長一短。この箱こそが決定版だ。って、当たり前か。全部入りだもんね(笑)。でも、フレディ・キングのパフォーマンスは全部が宝ってことで。

Blood From Stars / Joe Henry (Anti-)2009/08/17

Blood From Stars / Joe Henry

さあ、いよいよ明日、18日はCRTですよ。エリック・クラプトン・ナイト。誰もが知ってるような気になっているけれど、実は全体像があまり知られていないアーティストの代表格みたいなところもあって。でも、先日の来日公演を見たり、去年のスティーヴ・ウィンウッドとの共演ライヴ映像を見たりすると、やっぱりとてつもなくすごい人であることは確かで。そんなクラプトンの魅力を青山陽一+中森泰弘+萩原健太の“ギター長屋”トリオが中心になって、あーだこーだ解きほぐしていこう、と。そんな夜になればいいなと思ってます。

自伝とか読んでみると、クラプトンってほんとにダメ男というか。子供のころから、大好きなブルースの世界にどっぷり浸り込む以外は、もうセックスのことしか考えてないみたいな(笑)。わかりやすいような、わかりにくいような。とにかく“振り切った”人だったようで。その実生活でのダメさかげんと音楽面での超絶さとの共存具合がなんとも魅力的だなぁ、などと凡人としては思ったりもするのだけれど。

いろんな角度からクラプトンのブルース感のようなものにアプローチしていきましょう。左のインフォメーション欄を参照していただいて、こぞってご参加を。お待ちしてます。てことで、本日のピックアップ・アルバムは、クラプトンとはまた違った形でブルースの表現を自分のものにした感じのジョー・ヘンリーの1枚です。

手応えたっぷりの『シヴィリアンズ』に続く2年ぶりの新作。といっても、その間、アラン・トゥーサンの『ブライト・ミシシッピ』、ランブリン・ジャック・エリオットの『ア・ストレンジャー・ヒア』のプロデュースを手がけていて。その辺からの影響もたたえた素晴らしく深く豊かな仕上がりになってます。

これまで通り、本作でもジョー・ヘンリーは曲ごとにいろいろな人格になりきって、様々な感情が複雑に渦巻く心象を綴っていくわけだけれど。ランディ・ニューマンやトム・ウェイツ、ハリー・ニルソンなど、近い方向性を持った先達のようなシニカルさが全面に出ないところがこの人の持ち味かも。まっすぐ聞く者の胸に突き刺さる歌声のせいかな。メソッド・アクター的といえばいいのか、そういう表現力にもかなり磨きがかかってきた感じ。

のっけ、ジェイソン・モランの切ないピアノ演奏によるプレリュードに続いて聞こえてくる「ザ・マン・アイ・キープ・ヒド」の冒頭の歌詞で、いきなりジョー・ヘンリーは“俺が心の中に隠し続けている男のことは誰も知らない”と歌い出す。ひと声目でいきなりぞくっとくる。まだあまり歌詞全体のことを把握できていないけれど、ブルース形式を取り入れつつ、よりリリカルに昇華した表現が随所に聞き取れるような…。

ジェイ・ベレローズ、デイヴィッド・ピルチ、パトリック・ウォーレン、マーク・リボーらを迎えて、サウス・パサディナの自宅地下のスタジオで録音。さすが、シンプルな中にもこの上ない緊張感とスリルをたたえた音作りで。圧倒されます。自宅ってこともあって、息子のリヴォンもサックスで参加している。ちゃんと宿題を終えてからのレコーディングだったそうです(笑)。とつとつとした中にも、確かな歌心を感じさせるサックスが聞けます。